【数学科進学を考える人へ】 「大学の数学は高校までと違う!?」問題について

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 皆さん、こんにちは。東北大学@homeサークル長の西淵です。
 今回はマニアックなテーマになりますが、 「大学の数学は高校までと違う!?」問題について 実際に数学科に在籍している私の経験も踏まえて考えていきます。今回の記事は、東北大学や@homeに興味がある方というよりも、一般に数学科への進学を考えている高校生向けの記事です。

「大学の数学は高校までと違う!」という噂

 理系学部、特に数学関係のコミュニティにいると度々「大学からの数学は高校までと違う」という話を耳にします。そして、こうした話が行われるときには大抵の場合ネガティブな意味(戒めの意味)がこめられており、要するに「大学になると数学は難しくなる」ということを言われます。同時に「高校までとは別の科目のようになる」や「哲学のようになる」と表現されることもあります。
 実際私も東北大学に出願するときに、数学科と物理学科のどちらで希望を出すか迷っていました。個人的には数学の方が好きだし興味があったのですが、まわりの大人たち(親や先生、先輩)などの話を聞き少し心配していました。「いざ入学してみて自分に合わなかったらどうしよう」と思ったからです。

実際、大学の数学は高校までの数学とは違う!

 結論から言うと、大学の数学は高校までの数学と違います。もちろん、どちらも数学という名前の科目であるという点では同じですし、高校までの勉強が全く役に立たないわけではありません。しかし、大学からの数学と高校までの数学とでは目指しているものが違うのです。そして、それ故に思っていたのと違ったと感じたり大学の数学にはついていけないと感じてしまう数学科の学生も一定数います。では、両者はどういう点で違うのか、そしてどのような人なら数学科に向いているのか私の考えを説明していきます。
 以下見やすいように、高校の数学の特徴は青文字や青のアンダーライン、大学の数学の特徴は赤文字や赤のアンダーラインで書きました。

高校の数学は”教養”、大学の数学は”探究”がベースになっている

 高校の数学と大学の数学は目指しているものが違うとかきましたが、それは一言でいうと「学生の教育」か「学問の探究」かという形で言い換えられるでしょう。高校生が日夜懸命に数学を学んでいるのは、言ってしまえば文科省が学生としてこれは学んでくださいねという指示として数学という科目が課されているからです。そのため、高校の数学は学生の教育、教養を育んでもらうことを目的として構成されており、それ故に実用的なものや論理的思考力を養う適切な題材となっています。
 いやいや、微分積分なんていつ使うんだよ!と思う方もいるかもしれませんが、案外理系の専門職では幅広く使います。これに対して、大学の数学は理系の専門職ですらそのまま使うことが少ないようなことも学びます。また、高校は論理的思考力を養う”適切な”題材を扱っているというのも大事です。高校で数学に苦手意識を持つ人は多いですが、それでも一般的には全員が履修する科目ですので極端に複雑な論理などは使いません。(実は使っているところも簡単な言葉で誤魔化しています。)高校の数学でも十分複雑で難しいように見えるかもしれませんが、高校生が中学の教科書を見て簡単に感じるように、数学科の大学生から見ればそれほど難しいことはしていません。
 では、大学の数学はどうかというと、大学も一応教育機関ではありますが同時に研究機関ですので学問の探究がメインになります。特に工学部や経済学部などと違って、理学部で主に育成するのは技術者といより研究者です。そのため、計算テクニックなどよりも、数学の諸分野に対しての本質的な理解が求められます。これは本当によく勘違いされることなのですが、実は数学科は計算はほとんどしません。普通に電卓使います!!

大学数学で重要なのは論理の構成力

 数学科では計算はしない。では何をするのか?証明です。数学科で科される課題のほとんどは、何か命題(や定理)があって、それを証明せよ(示せ)というものです。その際に、必要になるのが証明の記述を書くうえでの論理の構成力です。簡単な例をあげれば、「AならばB」と「BならばC」が成り立っているので「AならばC」が成り立つというような、論理的に正しい推論の積み重ねです。このような論理学ともいえるようなある種の厳密性が、大学数学が「哲学のようだ」と言われる一つの理由でもあります。

数学科で意外と重要な「想像力」

 「哲学のようだ」といわれる理由の一つが論理的な厳密性ということを書きましたが、もう一つ哲学らしく(?)しているものが対象の抽象性です。数学というと、「”数”についての学問」というイメージです。たしかに間違ってはないのですが、数学の対象が数だけかというと、それは大間違いです。実は専門的な数学の世界は集合(この”集合”は数学の専門用語としての意味です)という概念を軸に構成されているのですが、この集合の中身は多岐にわたります。極端な話、何の集合であっても扱うことができ、例えば偉人(織田信長、坂本龍馬など)の集合でもいいですし、家電(洗濯機、冷蔵庫など)の集合でもいいですし、この宇宙にある素粒子全部の集合でも考察可能です。唯一の例外はその存在自体が論理的に矛盾している集合です。(自分自身を含まない集合の集合など。詳しくは集合のパラドックスなどで検索。)
 他にも、数学では無限のものや4次元以上の座標など、一般に現実の世界ではまず見かけることもないような対象が度々登場します。(というか、学習が進めば進むほど現実離れしたものがほとんどです。)こうしたものを頭の中で想像し理解する必要があるのです。古代ギリシアの哲学者プラトンが純粋な理想的原型としてこの世の外にイデアを想像したように、専門数学に携わる人間は超越的な対象を日々想像します。

数学科にはどんな人が向いているのか

 ここまでの話でも伝わったと思いますが、数学科に向いている人、大学の数学を楽しめる人は
①論理的思考が得意あるいは論理的な厳密性を重視する人
②空想が好き、抽象的な議論が好きな人
の2タイプでしょう。私の周りの数学科が身になじんでいる学科の友達や大学の教授などは、このどちらかまたは両方に当てはまる人が多いです。
 ご想像の通り、この①、②に当てはまる人はめったにいません。面倒なことはなるべく考えたくないと言うのがヒトという種のマジョリティです。そして、この希少性故に数学科の人間は奇人、変人と呼ばれることが多いのです。(興味の対象が他の人と違うという意味ですので、奇行などはしません。ご安心ください。)

まとめ

 今回は、大学数学と高校数学の違いについてまとめました。大学からの数学は、学問の探究活動になっていき論理的厳密性や抽象度があがるという点で高校までの数学と違いました。そして、そんな数学科は論理的思考が得意な人や空想が好きな人に向いていると思います。しかし、進路選択は人それぞれ。最終的には自分自身の好奇心と直感で決めるのもいいのではないでしょうか。

 当サークル@homeの活動報告記事はこちらから。

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